HIGH OUTPUT MANAGEMENT 人を育て、成果を最大にするマネジメント アンドリュー・S・グローブ(著)



“建設的な対立”と“disagree but commit”の原点がここにある



著者はインテル元CEOのアンディ・グローブ。インテル、第1号の採用者(創設者のロバート・ノイスとゴードン・ムーアを含めた社員では3番目)として、インテルの創設に参画し、1987年から1998年にかけて同社のCEOを努め、2016年3月にこの世を去った人物。本書の原書が書かれた(今は絶版になっている)のが1983年だからCEO就任の少し前の時期に当たります。



内容はタイトルの「HIGH OUTPUT MANAGEMENT」の通りであることがよかったです。

「マネージャーのアウトプットとは、自分の組織のアウトプット+自分の影響下にある全ての組織体のアウトプット」という言葉は本文のいたるところに登場します。これは軸をブレさせないためなのでしょう。本書は、事業戦略でもなければ、リーダーシップでもなく、著者の半生を書いた自伝でもありません。あくまでも一貫してマネージャーと組織のアウトプットを高めるための方法を書いています。そしてその内容は、問題の本質に踏み込み、当たり前の解答でなく、アンディ・グローブ独自の切り口で提示しています。



例えば、4章ではミーティングは非生産的活動で減らすべきという論調が進んでいるということを認めたうえで、ミーティングの意味を問い直し、ミーティングの存在の当否と戦うのではなく、むしろその時間をできるだけ能率よく使うための形態を論じています。



他にも、ITやネットベンチャーでは、習うより慣れろの風潮がいまなお続いていますが、16章では、なぜ教育訓練が上司の仕事なのかを論じ、部下の失敗の授業料を顧客に払わせていることは絶対に正しくないと断じています。(教育訓練については、序文を執筆したベン・ホロウィッツ(著)「HARD THINGS」でも大きな論点であり、影響を与えた内容です。)



そして、私が最も印象に残ったのが、13章の人事考課です。人事考課は感情や意見がからまるため難しいとしたうえで、そもそもの目的を問い直し、その重要性を論じています。

時には厳しい評価をしなければならないし、評価基準に絶対はありません。それを受け入れたうえで、部下とどのような関係を築き、どのように伝え、業績を改善させてゆくべきなのでしょうか。



それを語るうえで、アンディ・グローブを表す重要な言葉を紹介します。それは、“建設的な対立” と “disagree but commit(賛成しないが目標達成は約束する)”です。実はこれらの言葉は本書には出てきません。おそらく、原書が書かれた1983年以降に形作られたものなのでしょう。



しかし、本書の13章 人事考課を読むと、上記の2つの言葉の背景に触れることができるのです。本文より2箇所引用します。



『私はある部下に事態を私の見方で見るようにと一生懸命説得を試みた。彼は容易に同調しようとしなかった。そして最後にこう言った。「グローブさん、私を説得しようとしても無理ですよ。それよりも、どうして私を説き伏せようと意地を張るんですか。私はすでにあなたの言うとおりにしますと答えているんですから」。私は黙ってしまった。困惑した。なぜだかわからなかった。ずいぶん時間が経ってからわかったのだが、私が言い張ったのは事業の運営にほとんど無関係のことで、単に自分の気分を良くするためだった。それだからこそ困惑したのである。』(P284)



『複雑な問題では容易に全面的な一致を見ることなどない。部下が自体を変えることを約束するなら、真面目に取り組んでいると考えるべきである。ここで重要な言葉は“呑める”ということばである。(中略)仕事上の必要と気持ちの安らぎとを混合すべきではない。事態を動かすのに、部下はあなたの側に立つ必要はない。あなたとしては、決められた行動のコースを追いかけると部下に約束させる必要があるだけだ。』(P283)



本書は、きわめて重要なポジションのはずなのに、無視されている、ミドル・マネージャーに向けて書かれたといっています。

ここまでの私のレビューで、ミーティング、教育訓練、人事考課について触れてきました。これらをはじめとする本書の内容は、経営者でなくとも、組織の大小も問わず、多くのマネージャーに得られるものがあるのではないでしょうか。


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ここからは余談ですが、私が最初に感じた印象は、本書は「出版社のマーケティングがうまい」です。


2015年に数々の経営書の賞を総なめにしたベン・ホロウィッツの著書「HARD THINGS」では、本書の原書が引用され、そこからヒントを得たことが書かれているのですが、その復刊となる本書では、ベン・ホロウィッツ本人が序文を執筆し、表紙のデザインやフォント、紙質が同じものが使われていて、まるで「HARD THINGS」のシリーズのようなのです。

しかし、原書が書かれたのは1983年なのだからもちろんシリーズではありませんし、内容は似ても似つかないです。誤解のないよう付け加えると、私は出版社が騙していると言いたいわけではありませんし、序文の採用は良かったと思っています。(だから感想は「うまい」なのです)しかし、ベン・ホロウィッツによる序文を読むと、原書でアンディ・グローブが表紙の写真写りに全くこだわらない(ジェケットも着ず、セキュリティカードを腰に指したまま写る)等身大のよさが書かれています。これには少し皮肉を感じてしまいました。

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