3月のライオン 羽海野チカ(著)


プロフェッショナルの苦痛と深淵


映画・アニメ化され、大ヒットした、『ハチミツとクローバー』の作者の羽海野チカの新作で現在も連載中です。

ハチクロもよかったけど、今作もいいです。めっちゃハマっているので恥ずかしげもなく熱く語りたいと思います。


プロの将棋の棋士を題材としていますが、将棋は、等しいルールで、1対1の戦いで、必ず勝敗(優劣)がつきます。この世界はやっぱりすごく厳しいのですが、私たちの生活でも優劣は大なり小なり避けては通れないですよね。


最近、元フジテレビアナウンサーの長谷川豊のブログでこのことを厳しく取り上げていました。


ドッジボールも学校のテストも音楽も習字なども…全部、優劣は付きます。そして、私たちの生きているこの社会は残酷な社会であることを人間は知っていくのです。

どれだけ野球の練習をしても、生まれつきイチロー選手にはかなわない。(中略)

「世界で一つだけの花」なんて、ただの甘やかしソングです。みんな特別ではありません。ザコなんです。だからこそ、それを知ったうえで頑張るものなのです。逃げて、避けて、どうするよ?






そこで、この漫画の「逃げて、避けて、どうするよ?」の答えはこちら。

「縮まらないから」といって、それが、オレが進まない理由にはならない、

「抜けないことがあきらか」だからって、オレが「努力しなくていい」ってことにはならない


読者に力を与えてくれる言葉ですよね!


でも、実際にはそんなに簡単ではないはずです。






アメリカ・コーネル大学のある研究では、「ダニング・クルーガー効果」として、次のように説明をしています。


1.無能な人は、自分のスキルの水準を過大評価する傾向がある。


2.無能な人は、他の人々の本当のスキルを認識できない。


3.無能な人は、自分の極度の至らなさを認識できない。


4.自分のスキルの水準を大幅に向上させる訓練を受ければ、それ以前のスキルの欠如を自覚し受け入れることができる。


つまり、新しいことや専門的で複雑なことを学べば学ぶほど、自分が「無能なことを自覚」するようになり、その結果、自分の能力に対して自信が持てなくなるということです。






では、どうしたらいいのでしょうか。


TEDで好評を博した、サイモン・シネックのプレゼンにヒントがありそうです。


私なりに、端的にまとめてしまうと、「何のために」を考えることが重要。その「何のために」を信じた人がそれを「自らの動機」とした時のみ人は行動に移す。ということです。






この漫画を見てみましょう。

(あの人の)「力になりたい」と、二人称のはずなのに、(自分が)「勝ちたい」「強い存在でありたい」「必要とされたい」と、一人称に移っていきます。でもそれでいい。(サイモン・シネック曰く、始まりはそうでなくてはいけない。)






端から見ると苦しいことのように見えて仕方がないのに、当の本人には全然苦痛はない。「何のために」と明言しなくても、本能的に反応している。




そんな、プロフェッショナルの苦痛と深淵を垣間見ることができる作品です。


これからは、ゼネラリストで調整役がもてはやされる時代ではない、何か専門性を持ったスペシャリストになりたいと思っているけど、なかなかうまくいかない…、という人の心に息抜きにお勧め漫画です。


※重たいシーンを取り上げて、ちょっと堅苦しいレビューになってしまいましたが、こんな厳しい世界を生きるために支えあう人間関係やほっこりシーンも満載で、もっとかるーく読む分にもお勧めです。

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