絶対達成する部下の育て方――稼ぐチームに一気に変わる新手法「予材管理」 横山 信弘(著)


ランナーズ・ハイへの到達までは地獄。でも、その先にあるものは…


この本との出会いはかれこれ3年近く前。当時の私は、セールス・フォース・オートメーション(SFA)のシステム管理者として、営業の仕組み化を考えていました。


そこで、本書の著者のセミナーに参加し、著者の迫力と説得力に圧倒され、その日うちに手に取ったのが本書です。以来、副題にもある「予財管理」は、私のSFA/CRMのバイブルの一つになりました。


本書で紹介されていることは、アカウンティング(管理会計)の考えそのものであり、「予材管理」をはじめとする独自のKPIの設定は非常に魅力的に映ったのです。




◆そもそも、アカウンティングとは、何なのか◆
◆映画『マネーボール』 にみる野球独自のKPI◆

野球では、一番の目的は勝つことです。勝つことが観客動員、収益にもつながります。


野球で勝つための指標は「打率」「打点」「ホームラン数」などが一般的です。この数値が良い選手はもちろん優秀なのですが、獲得競争も激しくなり、お金のある大きな球団には敵いません。


そこで、注目したのが、「出塁率」と「長打率」です。つまり、「フォアボールでもいいから塁に出る能力が高く、またバットに当てたときに長打にする能力が高い選手が優れている」という発想です。(守備の指標などもいくつもあるのですがここでは割愛)


他の球団の常識を覆し、この発想を貫き、限られた予算・人件費の中で効率的に勝利に導く。これが、映画『マネーボール』のお話です。


つまり、アカウンティングの本質とは、管理会計とはいうものの、お金の計算をすることにあるのではなく、中長期的な企業業績を高めるうえで…、

 ●戦略に合わせて測定する指標を決める

 ●出てきた数値を共有し「見える化」する

 ●数値を元に経営や現場での意思決定に活かす

 ●しっかりPDCAを回し、常に業績向上を図る

以上を実行することにあります。


【参考】グロービスMBA集中講義 [実況]アカウンティング教室 グロービス(著)


少々前置きが長くなってしまいましたが、本書が提唱する独自のアカウンティング「予財管理」を見ていきましょう。



◆「予財管理」とは◆

●営業の予算管理(見込み案件の管理)の指標を以下の3つの段階に分ける。

 「見込み」・・・受注が見えている案件

 「仕掛り」・・・確度が低い見込み案件

 「白地」・・・顧客の課題が顕在化した全ての案件

●合計額が予算対比で2倍以上持つ。(目標ではなく最低限

●あらゆる営業活動の中で、「白地」の獲得・育成に徹底的にフォーカスする。

●「白地」の獲得・育成に向けて、徹底的に行動量を増やす。




◆「白地」「仕掛り」の重要性◆

学生時代、テストの後にこんな会話に記憶はありませんか?

 「おまえ、すげーな、いつの間に勉強してるんだよ」

 「いや、全然だから」

影で努力しているのにそれを表に出したくない。

ましてや営業組織では、見込みをずらすとマネージャーから詰められる…、であれば、もう少し固まってから報告しよう……っと。


しかし、著者はこのように断言しています。

「このようなことは、個人の話ならいいのですが、営業組織ではいけません。すべてオープンにしなくていいのであれば、営業組織は必要ありません。」

通常どの組織でも行っているは「予実管理」ですが、「仕掛り」や「白地」が分からなければ、営業マネージャーは、担当の営業プロセスや課題が把握しようがないというわけです。




行動の8割を、「白地」に傾ける◆

いかにして、合計額を予算対比の2倍以上を積み上げるのか。(目標ではなく最低限)

これを実現するためには、「白地」の獲得・育成がカギ。案件の初期の段階(または、お客様の課題が顕在化する前)のお客様との信頼関係が勝負を決める。「見込み」と「仕掛り」は、「白地」に注力した後の結果にすぎない。としています。




さらにそれを実現するためには、とにかく行動の量を増やす。(とにかくたくさんバッターボックスに立つ!)「予財管理と大量行動はセット」としています。

では、この大量行動は、何のために、どのように行うのか。実は、このマインドセットと手段と手法、これこそが、本書の本題かと思っています。



◆お客様との接触回数を増やす◆

古臭い営業スタイルとバカにしてはいけません。「単純接触効果(ザイアンス効果)」や「自己開示効果」などの心理学研究を引用し、見た回数が多くなる = 接触回数が多くなるということが、好感度を上昇させる作用を持つことを説明しています。

ゆえに著者は「御用聞き営業を推奨します」と、はっきり言っています。「御用聞き営業から、提案営業に変えていきましょう」という最近の流れに対しても、「提案営業を履き違えている人が多すぎます」とも。



◆「自分自身で」どのくらいやるか決める◆

営業にとって、最も基本的かつ重要な行動計画は、お客様とのコンタクトです。そこでお客様を訪問する、お客様に電話するなど、自分から能動的に行動できることを選び、目標数値をどのくらいやるか「自分自身で」決めることが重要です。



◆大切なのは、やり切ること◆

目標が未達の場合に人は、「100件を目指しましたが、70件で終わっています。70件実践してみて感じたことは…」という話ばかり出てきてしまいます。中途半端にしか実行していないのに、検証(C)しようと。しかし、やり切らない限り、何かを検証しようがありません

「朝10時に、絶対に間に合うように行く」と、「朝10時に間に合うように行けたらいいな」とでは、思考プロセスが異なる。前者のマネジメントルールを徹底するのです。



◆量 VS 質 の戦い◆

物事が複雑化される中で、多くの人はクリエイティブな仕事を求めます。つまり、訪問の量を増やすよりも提案の質を高めたいと。

しかし、量は明確に定量表現できますが、質の基準は人それぞれです。

量をこなすと質が落ちるのは、その習慣に慣れていないから。問題なのは、たかだか自分の体が慣れるまでに時間がかかるという理由で、その方法を選択しないという発想です。

慣れるということは、「学習の4段階」の無意識的有能の状態になること。それまでには、4~8ヶ月かかります。その間、方針をブレてしまってはいけません。

 <学習の4段階>

 1.無意識的無能・・・英語で例えると、単語も文法も知らないから、当然英会話ができない

 2.意識的無能・・・単語も文法も勉強したが、まだ英会話ができない

 3.意識的有能・・・日本語で考えて英語に変換すると、英会話ができる

 4.無意識的有能・・・英語で考えて英会話ができる



このように、著者の言葉は、生の講演聴いても、本書を読んでも大変厳しいものであり、営業マネージャーをされている方にとっては、耳が痛い話ばかり。また独特の言い回しや造語、心理学からの引用も多く、正直受け入れ難いことも多いと思います。


しかし、講演は満員、公演終了後は名刺交換の長蛇の列、Amazonレビューには絶賛する声も多く、「実際に営業活動が3倍に増え、予算を200%達成した」というような、劇的な改善の声が多数寄せられるのも不思議ではなくなります。


「良薬口に苦し」と言いますが、本書は劇薬。そして、やっぱり劇薬は良薬よりもさらに苦い。※4~8ヶ月突っ走ってランナーズ・ハイの状態を作り出すなんて(最後の画像)、その前に悲鳴が聞こえて当然です。


でも、苦労を乗り越えた先に訪れるランナーズ・ハイが代えがたいものであるように、試してみる価値はあるのではないかと思います。また、結果的に営業予算が達成できたらそれまでの疲れや苦労も吹っ飛ぶはずです。


そんな、きれいごと抜き取り組みたい営業マネージャーにはもちろん、現場の営業パーソンにもオススメの一冊です。

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