本物の提案営業 渡邊 達雄(著)
「プロセス管理」と「パイプライン管理」にフォーカスして考えてみる
本書のAmazonレビューを見てみると、「話としては、10年前くらいからよく言われていることを羅列しているだけ。何のオリジナリティも、目新しさもなく、単なる焼き直し。」という酷評があります。確かにその通りかもしれないと思いました。しかし、10年くらい前から言われ続けているのに、一向に改善しないのが本書でとりあげる問題の難しさなのではないかと思います。
本書は、これらの問題に対していくつかの焦点に絞り、実践可能な手法を具体的に示しているため、一部の方には参考になる箇所があると思います。(全員に全部である必要はないと思います。)一方、課題ではない、または課題を認識していない方にはなかなか違いを伝えるのが難しいのも事実でしょう。
私は前者でした。約2年前、私はSFAのシステム管理者として、営業の仕組み化、チーム力アップの手段と手法を模索している中で、本書で出てくる「提案プロセス管理」「パイプライン管理」は、それまでのモヤモヤを解決してくれるものだったのです。
また、一つ前の投稿で書いた「予材管理」と重なる論点も多く、地続きのものとして、それぞれの効果を高めることが期待できます。
本投稿では、本書の中でも「提案プロセス管理」「パイプライン管理」にフォーカスして考えてみたいと思います。
◆「月末着地予想」と「提案プロセス管理」の違い◆
あなたが所属する営業組織では、見込み案件の管理指標は、何を基準に行っていますか?A見込み、B見込み、C見込みといった基準を採用している方も多いのではないでしょうか。
本書ではこれを「月末着地予想」と呼び、やめるべきものとしています。
例えば、B見込み、その基準は何でしょうか?C見込みとの境目は?これが営業個人の肌感であれば、少なくともエライ人達が集まる幹部会や部長会なるもので、金額を報告し合っても何も分かりませんし意味がありません。また、現場で行われる営業会議では、状況を聞くことに時間が費やされ、具体的なアクションを議論しきれないでしょう。
◆では、提案プロセス管理とは◆
端的にいうと、A見込み、B見込み、C見込みといった見込みランクを、「現在のステップ(フェーズ)」に改めることです。
本書で提唱するフェーズは以下の4段階です。
●Validated「提案機会発見」・・・課題が存在し、顧客が認識はしているが、まだ提案を受け入れるか分からない状態
●Qualified「提案機会獲得」・・・課題が特定され、その解決に取り組む姿勢を見せ、自社の登用の可能性を示している状態
●Proposed「提案中」・・・提案書、見積書を提出し、まだ回答はきていない状態
●Contracted「契約完了」・・・提案書、見積書が受理され、注文をいただいた状態
また、受注に至らなかった案件を以下の3つに分類する点も有効です。
●Lost「失注」・・・競合他社で契約し、自社が採用されなかった場合
●Canceled「案件消失」・・・案件自体がなくなり、競合他社も契約していない場合
●Withdrawn「取り下げ」・・・要件に合わず、自社から提案取り下げた場合
◆他の事例と照らしあわせてみる◆
実はこのプロセス管理は、CRM/SFA大手のセールスフォース・ドットコム(以下、Salesforce)でも推奨しています。
自社のビジネスに自社のサービスを活用し、それをロールモデルとして公開しているSalesforce。そのプロセス管理は、以下の通りです。
ここで注目したいことは、Salesforceでは、現在のフェーズから次のフェーズに進めるための基準を明確にしていて、システム上に一定の情報を登録しなければ、次のフェーズに進めないよう制御されていることです。(上記の画像の「次のアクション」はほんの一例で、実際にはいくつものチェックリストがあるようです。)
話は変わりまして、一つ前の投稿で書いた「予財管理」。やはりこちらも同じくフェーズの考え方です。これら3つを重ねてみると以下のように考えられます。
それぞれ、同じような考え方であることがわかりますし、読者それぞれの業種業態に合わせて考えることができるかと思います。
次に、これまでの「提案プロセス」を元にした、「パイプライン管理」を具体例で見てみたいと思います。
※本書の内容からかなりアレンジを加えています。
◆パイプライン管理◆
【集計開始 1月第1週】
このように、
・縦のそれぞれのグラフに受注予定日(ここでは月次だが、業態によっては4半期でもよい)
・横軸に集計日であり、会議を行う日(週次)
・そして、グラフの値は金額を、上記の「提案プロセス」ごとに積み上げます。
・また、赤のラインが1ヶ月の予算(ここでは、1000とします)
このポイントは、1月の段階から、2月、3月の見込みをひと目でわかるように、当月になる前はWKをマイナスにしておくことです。(1月のWK 1は、同時に2月のWK -4であり、3月のWK -8となります。)
このようにすることで管理者は、時を追うごとに案件が増えたのか減ったのか、また、翌月へのずれ込みを起こしたのかを追うことができ、未来を見越して行動することができます。
※このようなグラフから、案件の詳細に即時にドリルダウンできるシステムも必須です。
◆パイプライン管理で分かること(例)◆
【1月第2週】
ここでの管理者の洞察は、以下が想定されます。
・1月・・・月中で予算達成率は50%、見込みは十分積み上がっているため概ね問題なし。
・2月・・・3月に比べて2月の見込みが不足している。
→ 1月の見込みの刈り取りを行いつつ、今から2月の新規案件の獲得に注力すること。
【2月第2週】
ここでの管理者の洞察は、例えば以下の通りです。
・2月・・・月の中旬なのに実績はわずか30%、提案中を含めても50%と明らかに不足している。
・3月・・・見込みが十分積み上げられている上、"提案中"のフェーズが700もある。
→ 2月の見込み案件を再精査し、取りこぼしを防ぐこと。また、3月の案件で前倒しが可能なものがないか確認し、2月の受注にフォーカスすること。
【2月第4週】
単月での予算達成は未達だったものの、最終週で追い上げは見せ、1月と2月の合計では、予算達成が確認できます。
【3月第3週】
この時点で当四半期の予算を達成したことが分かります。
→3月内に受注できるものは上積みすべき。また、4月以降の新規案件の獲得に注力すべき。
【3月第4週】
3月単月で、1300(予算達成率130%)、当四半期では、予算達成率110%であることが分かります。
※ここでは割愛しましたが、当然2月、3月と時を追うごとに、常に4月、5月と未来の見込みをウォッチしてきます。
このように、A見込み、B見込み、C見込みの「月末着地予想」をやめて、「提案プロセス管理」と「パイプライン管理」にすると、以下の効果が期待できそうです。
●今、何が足りなくてどこにフォーカスすべきなのか、未来(来月、四半期など)に向けて何を行うべきなのかを判断することができる
●営業会議の論点を絞り、具体的なアクションの議論を深めることができる
ここで、ある疑問が生じるかと思います。
◆これって、単なるマイクロマネジメントじゃね?◆
その答えは、Yesにもなり得ますが、ここでは明確に、No! むしろ、現場を応援すると断言したいと思います。
上記に挙げた2つの効果、その目的は、適切なタイミングで正しい意思決定を行うこと、に他なりません。
そこで重要なのは、誰がどうやって意思決定をするのかです。
必要な情報(データ)があれば、データに基づいて意思決定することができます。そこに、役職や権威、社内政治は必要なくなります。
最後に改めて本書の帯を見てみましょう。
この「やめるべきもの」のリストに心当たりのある方も多いのではないでしょうか。3番目に「営業しない管理職」とあるように、現場ではやめたい(やめてほしい)と思っていても、やめられない組織も多いのではないかと思います。
1つ前の投稿「絶対達成する部下の育て方」では、営業マネージャーをされている方にとっては、耳が痛い話ばかり、と書きました。本書もまた一部の営業マネージャーには、耳の痛い話しなのではないかと思います。
著者はこのように言っています。
「職位(=能力)が高い管理職こそ、顧客に向かうべき」
「管理の仕事は、(中略)仕組み化によって自動的にデジタルでサポートされるべき」
社内会議でしか存在感を発揮できず、社内政治にまい進する、評論家上司にはご退場いただきましょう。
そのために意思決定は、マネージャーの権威でもなく、社内政治でもなく、勘と経験(それはそれで大事だけど)でもなく、データに基いて行われる必要があると思っています。
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