失敗の本質―日本軍の組織論的研究 戸部 良一(著)他
終戦から70年、本書発行から30年経っても変わらぬ組織論に想うこと
太平洋戦争敗戦の原因を組織論的に研究した、言わずと知れた名書。
一年ほど前から積ん読中だったのですが、終戦から70年というこの機に読了しました。
初版発行から30年以上経過しているにも関わらず、今にも通じる政治や報道機関の実態(引用1)、発行当時高度経済成長期まっただ中にも関わらず、その後の日本の企業の行き詰まりを予言しているといっても過言ではない指摘(引用2)は、やはり名書と言わしめるものを感じました。
1つずつ見ていきたいと思います。
―――(引用1)―――
日本軍が特定のパラダイムに固執し、環境変化への適応能力を失った点は、「革新的」といわれる一部政党や報道機関にそのまま継承されているようである。すべての事象を特定の信奉するパラダイムのみで一元的に解釈し、そのパラダイムで説明できない現象をすべて捨象する頑なさは、まさに適応しすぎて特殊化した日本軍を見ているようですらある。さらに行政官庁についていえば、タテ割りの特立した省庁が割拠し日本軍同様統合機能を欠いている。
※強調は筆者によるもの
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→未だに一向に進まない普天間基地移設、平行線をたどる安保法案、朝日新聞の誤報や発覚後の対応を見ても、やはり今でもこの状況が継承され続けていると言えそうです。
また、一部の報道に扇動されたり、それを極度に敵対視する大衆心理についても、反面教師として私たち個人が組織論を考えなければいけないと思わされるきっかけを与えてくれます。※下記2つのリンク
―――(引用2)―――
さらにいえば、戦後の企業経営で革新的であった人々も、ほぼ四〇年を経た今日、年老いたのである。戦前の日本軍同様、長老体制が定着しつつあるのではないだろうか。米国のトップ・マネジメントに比較すれば、日本のトップ・マネジメントの年齢は非常に高い。日本軍同様、過去の成功体験が上部構造に固定化し、学習破棄ができにくい組織になりつつあるのではないだろうか。
日本的企業組織も、新たな環境変化に対応するために、自己革新能力を創造できるかどうかが問われているのである。
※強調は筆者によるもの
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→繰り返しになりますが、本書の初版発行は1984年、日経平均至上最高値が1989年なのだからバブル崩壊直前、高度経済成長絶頂期です。にも関わらず、日本企業を長老体制とする指摘には驚きを感じます。
ソニーは衰退し、アップルのような企業が日本から生まれないのはなぜでしょうか。
すでに議論され尽くされたテーマですが、本書のケースから得られるものは少なくありません。
以下のリンクから、コンサル大手、A.T.カーニー日本法人会長の梅澤高明氏の日経Bizアカデミーの全5回の連載記事は一読の価値があります。
そこで気になるのは、これほどまでに議論が進んでいるのに、なぜ実情は一向に改善しないのか?です。
残念ながら筆者にはその答えを持ち合わせていませんが、想いはあります。
マクロで見ると確かに改善していないのかもしれませんが、ミクロで見ると成功と失敗を繰り返し続けています。だからこそ、この問題の改善にはミクロから働きかけたいという想いです。
例えば、経営破綻した当初は「失敗の本質」が指摘した4つの問題をすべて抱えているといわれたJAL。しかし、2012年9月、上場廃止からわずか2年7カ月で再上場を果たしています。
一方、名書といわれる エクセレント・カンパニー や ビジョナリー・カンパニー で取り上げられた企業の多くは、その後に苦境を経験しています。(成功例のはずのアップルだって一度は危機に陥りました)
「できるだけ失敗せずに、成功を繰り返す」当たり前のように素晴らしいことのように見えますが本当でしょうか。本書を読んだ後の筆者の考えは真逆です。
●できるだけ小さなうちに「失敗」を経験する(失敗を避けるのではない)
●一度手にした「成功」を捨て続ける(成功は繰り返すのではなく積み上げる)
●そして、たくさんの失敗を糧に自己革新能力を創造する
これらに組織の大小は関係ありません。筆者に国(マクロ)のことは正直わかりません。会社単位で見ても成功と失敗の繰り返しのようです。であれば、もっと小さく考えたいです。事業部、チーム、そして個人と、ミクロでできることは決して少なくないと思うのです。
※本書は今日につながる組織論や経営学、意思決定論の研究試みであって、純然な戦史研究ではないとしています。本レビューもそれ同じく、組織論についての考察であって、戦史や戦争に対する解釈・思想は対象としていないことをご理解ください。
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