BtoBのためのマーケティングオートメーション 正しい選び方・使い方 日本企業のマーケティングと営業を考える (著)庭山 一郎


内容は薄いもののMAの未来を信じてみたくなる


マーケティング・オートメーション(以下MA)の解説本として、「BtoB」に特化した国内初の書籍であり、これまでMAやデジタルマーケティングの中心だったBtoCと異なり、営業対応が不可欠な高額商材の案件を創出し営業に引き継ぐ「デマンドジェネレーション」の役割・効果を取り扱った本です。


実務者向けにかなり絞られた対象に書かれた本であるため、私も1人の実務者としてユーザー目線で具体的にレビューしたいと思います。

結論から申し上げると、少なくとも私にとっては★2つ。率直な感想は以下の通りでした。


1.MAを導入する価値、投資対効果が分からなかった
2.本書の内容を応用し今の実務に活かせることは皆無だった
3.とはいえ、知識・理論として、MAやデマンドジェネレーションの必要性は理解できた



1つずつ説明させていただきたいと思います。



1.導入する価値、投資対効果があるのかは分からない

MAは、データベースマーケティングの1つです。見込客を持たないスタートアップで導入する者はいません。データ(見込客)が多ければ多いほどスケールメリットが効きます。


ここで一つのペルソナでROIを考えてみようと思います。

既存顧客数2000社、案件創出数1ヶ月平均300件(既存:新規は、4:6)、マーケティング担当者は3人、営業担当者は10人。さてこのペルソナが利益を出すことはできるでしょうか。もし事業規模が10倍であるならば、2万顧客、3000案件をリード・クオリフィケーションする効果は出そうです。では、3倍の事業規模ではどうでしょうか?半分の事業規模では?


本書のP112では、“MAはそもそも安い(中略)ひと昔前のERPやSFAのように2桁億円レベルの投資などはありえない”といっています。しかし、MAの導入に今使っている基幹システムとの連携などSIを含めるとあっという間に数千万の投資が必要になるでしょう。これは、上記のペルソナにとって、安い買い物でしょうか。

P13では、マーケティングROIの難しさが触れられています。しかし、本書にその回答はありません。



2.本書の内容を応用し今の実務に活かせることは皆無

前述のようにMAは導入できる企業を選びます。そこで現場で何が行われているかというと、複数のサービス(システム)を部分的に使い分けることです。(基幹システムはオンプレミス、SFAはSFA、メール配信はメール配信といった具合に)


そこで本書に対する私の期待は、リード・クオリフィケーション、つまりスコアリングの応用でした。P78では、“MAの主役といえる「スコア」”といっています。しかし、その内容はあまりにも薄く5ページで概要を説明して終わってしまいました。主役といっておいて、so-whatもなければ、how-toもないのは残念です。


また、本書の後半、約半分のページを割いている内容から得られるものは少ないと思います。

具体的には、第5章の主要ツールベンダーの製品紹介は、これだけ移り変わりの早い業界において、賞味期限は1年、どんなに頑張っても2年と思ったほうがよいでしょう。

第6章、第7章の事例と座談会は、著者が経営するシンフォニーマーケティング社の宣伝以外の何者でもありません。




と、ここまで大変厳しい書評をしてしまいましたが本書を読む価値が全くないかといったらそうではありません。


3.知識・理論として、MAやデマンドジェネレーションの必要性は理解できた

もし、本気でMAを導入したいと思っている方にとっては、「第4章 導入に失敗しないために」は、参考になると思います(私のこれまでの苦労と重なり大変共感しました)。


また、P26にこのような一文があります。“私が「今の日本にはデマンドセンターがどうしても必要だ」と言い続けている理由は、これら3つの経営課題【引き合い依存からの脱却】【売れない原因を正しく叩く】【途切れたタスキをつなぐ】を解決する唯一の道だからなのです”


本書でもよく比較対象にあげられるCRMが提唱されたのが約20年前。しかし、20年前に思い描いた未来が今実現できているかというと程遠いものがあります。MAの5年後、10年後はどうでしょうか。一握りの成功例はあっても、導入企業の多くは上記の3つの経営課題に悪戦苦闘しているでしょう。そして、それ以上の大多数は全くの手付かずの状態だと思います。


だからといってやらなくていい訳ではありません。むしろ、難しい課題だからこそ取り組む価値があるはずです。著者は上記の3つ経営課題の解決を“この世で最も素敵な仕事”といっている。BtoBマーケティングは、地味な仕事も本当に多いのですが、MAが少しは光を当ててくれるかもしれません。

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