ピクサー流 創造するちから―小さな可能性から、大きな価値を生み出す方法 エド・キャットムル(著)他



見えない問題にどのように立ち向かうかに答えはなく、その過程に価値がある



トイ・ストーリー、ファインディング・ニモなどヒット作を生み出したピクサーの共同創設者で、2016年現在、設立30年を迎えた今も現役の社長を務めるエド・キャットムルによる著書。書き上げるまでに2年かかったという、400ページを超える力作です。



既にAmazonレビューで多くの高評価が並んでいるのも納得で、映画製作でぶち当たる困難な問題に正面から立ち向かう組織・文化が形成されるまでの紆余曲折が非常に面白く、読了後にも何度も読み返しています。



そこで今回改めてレビューを書こうと思ったのには理由があります。私が関わるある組織に蔓延する雰囲気に問題を感じたためです。ちょっとした思考実験と思って、A組織、B組織のどちらがよい組織か、どちらに問題が潜んでいるか考えていただきたいと思います。


* * *


【A組織】

「あんなことやりました、こんなことやりました」

「なるほど、すごいですね」

「でも目標は未達です」

「でも精一杯頑張りました」


【B組織】

「目標100%達成しました」

「おめでとう、で、先日報告していた件はどうなったの?」

「すみません、やっていませんでした」

「それができていれば達成率は110%だったよね?なぜやらなかったの?」


* * *



どちらがよい組織かと尋ねるとほとんどの人はBと答えます(Aは目標が未達なわけですから当然かもしれません)。しかし、「どちらの組織が楽しいか」「どちらの組織で働きたいか」と尋ねると途端に言葉が濁ります。


では、「どちらの組織がやりがいがあるか?」「どちらの組織が成長できるか?」と尋ねられたらいかがでしょうか。

もしかしたら、多くの人はA組織に問題があるとわかっていながらも、なかなか変えることができないという状況なのかもしれません。


さて、ピクサーは上記A・Bどちらでしょうか。ここまでの流れから私の考えを述べるまでもありませんが、それを象徴する内容を本文から引用したいと思います。



―――(引用1)―――

ピクサーを特別足らしめているもの、それは、「問題は必ず起こる」と思って仕事をしていることだ。問題の多くは隠れて見えない。それを明るみに出すことが自分たちにとってどれほど不快なことであっても、その努力をする。

そして、問題にぶち当たったときは、全社全勢力をあげてその解決にあたる。(中略)それがあるから私は毎朝会社に来たいと思う。私にやりがいと、明確な使命感を与えているのはそれなのだ。

※強調は当サイト管理者によるもの

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問題を明るみに出し、たとえそれによって葛藤が生まれたとしても、全力をあげて解決に取り組むことができるのはなぜでしょうか。そして、どのようにしてその過程を楽しむことができているのでしょうか。



本書は、全4部「はじまり」「新しいものを守る」「構築と持続」「検証」で構成されていますが、著者の主張は一貫してこの問いに答えるものであるように感じています。



ここでもう一つ本文から引用したいと思います。


―――(引用2)―――

失敗を許すだけでなく、当然のこととして予想するようにしてきたおかげで、ピクサーのユニークな組織文化が生まれた。(中略)『トイ・ストーリー3』はピクサー映画で大きな危機に見舞われなかった唯一の作品であり、映画公開後、私は、最初から最後まで一度も大きな問題を起こさなかったクルーを褒めたい、と繰り返し公の場で言った。

そう言われて『トイ・ストーリー3』のクルーが喜んだと思ったら、大きなまちがいだった。私が失敗について語ってきたことが社員に浸透したせいで、私の褒め言葉に『トイ・ストーリー3』のスタッフは気分を害してしまった。自分たちはほかの作品のクルーに比べて努力が足りなかった、限界に挑戦していなかった、という意味にとられてしまったのだ。そんな意味で言ったつもりはまったくなかったが、正直言ってその反応は涙がでるほどうれしかった。私はそれを見てピクサー文化は健在だと確信した。

※強調は当サイト管理者によるもの

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刻一刻と変わる状況の中で取り組むべき課題が現れれば、必ず間違いはまた発生します。昨日の成功体験が今日には通用しなくなります。

そのことを伝えるために、400ページに渡る紆余曲折の体験談・失敗談は決して長くありません。



本書は、「これをしろ、これをしてはいけない」という安易な答えを提示するのではなく、ブレイントラストという会議形態や制度の価値を説くわけでもなく、何を成し遂げたのかという自慢をしているわけでもありません。

そこに至るまでの過程を書いています。



複雑な環境のあらゆる側面など理解できないのだと認め、異なる視点を組み合わせる方法を見出す方がいいのだといっています。

「測定できないものは管理できない」という格言にとんでもないと反論する。測定できるものは測定し、その結果を評価し、大半のことは測定できないと理解し、一歩引いたところから自分のやり方を見直すといっています。

「問題は必ず起こる」と思って、責任を与え、失敗させ、自ら解決させる。マネジメントの仕事は、リスクを防止することではなく、立ち直る力を育てることなのだといっています。



これらの姿勢、プロセス、考え方にこそ価値があるのだと思うのです。


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