トヨタとソフトバンクで鍛えた「0」から「1」を生み出す思考法 ゼロイチ 林要(著)
ゼロイチをやりたいのか、課題を解決したいのか
小学校では九九を覚えられずクラスでワースト2、就職活動で失敗し消去法的に大学院に進学、TOEICは248点、そのうえ極度の人見知り。
そんな著者が、誰かがつくった「1」を「10」にする仕事ではなく、自分の手で「0」から「1」を生みだす仕事を望み、挑戦と失敗を繰り返しながら、レクサスのスーパーカー、トヨタのF1、ソフトバンクのPepperの開発の任務を勝ち取り、プロジェクトを成功に導いた要因を解説した書籍です。
私は、書店に立ち寄った際に偶然見かけて目次を立ち読み。
・必要なのは、「才能」ではなく「練習」
・アイデアは「批判」によって鍛えられる
・「不満」の多い人ほどゼロイチ向き
・「制約条件」こそアイデアの源である
上記に刺さるものがあり購入。結果は非常に面白かったです。
本書の特徴は、イノベーションを題材としながらも、起業家や研究者の視点ではなく、冒頭に記載した通りのエリートではない組織人の視点から書かれているところにあると思います。
しかし、本書を読んで多くの組織人が目から鱗が落ちて、「なるほど!明日からこうしよう!」と行動できるか(したいか)と思うかといえばそうではないでしょう。3点引用します。
“ハードワークなくしてゼロイチなし――。身もふたもないようですが、これは真理だと思います。”(P182)
“月曜日から土曜日まで、連日朝から夜遅くまで働きづめにならざるを得ませんでした。いや、労働時間は本質ではありません。寝ている時以外は常にLFAのことを集中して考え続ける毎日(寝ている間も考えていたのかもしれません)”(P188)
“ゼロイチとは、誰もやったことのないことですから、参照できるものは何もありません。そこで頼りになるのは、無数の経験によって身体で覚えた「勘」しかないのです。”(P179)
幸か不幸か、私はハードワーカー、ある意味ワーカホリックです。なので、私は著者に共感します。しかし、その価値観は本書を手に取る前からそうです。そんな私が他者にそれを適用しようとしても失敗します。いくら同僚や後輩と意見を交わしても、(本書P156のように協力者は得られたとしても)他者の価値観を変えることは難しいのです。
Newspicks で1人が残業ネタをピックすれば、何度となく残業反対派と、容認派の平行線の議論が展開されます。
では、「0」から「1」を生みだす仕事は、一部の人にしかできないことなのでしょうか。
そもそも、「0」から「1」を生みだす仕事、ゼロイチとはなんでしょうか。
Pepperの例を見てみると「人と心を通わせる人型ロボットを普及させる」というミッションは著者が関わり始める前にすでに存在していました。では、ゼロイチはこのミッションを指揮している孫正義氏であり、著者は「1」を「10」にする仕事と捉えることもできるのではないでしょうか。
著者の考えはもちろんそうではありません。
“不満や違和感を解消することができたとき、それをゼロイチというのです”(P77)
といっています。私はこれには同意します。しかし、もしそうであるならば、どんな小さなところにも、ゼロイチは存在するはずです。
ゆえに、私は以下に反論したいです。
“誰でも成し遂げられる仕事が、ゼロイチであるはずがない”(P134)
“ハードワークなくしてゼロイチなし”(P182)
“不満や違和感を解消することができたとき、それをゼロイチという”のであれば、自分の中でのゼロイチは他の誰かから見ればゼロイチではないかもしれません。逆もまた然り。また、“「制約条件」こそアイデアの源である”(P84)という本書の通り、プロジェクトメンバーを変えることはできないわけで、人もまた制約条件となり得ます。
であるならば、ゼロイチをやりたいという演繹的なアプローチが必ずしも推奨されるべきではありません。大小様々な課題で溢れる組織のなかで、ここに不満がある、ここを解消したいという、帰納的なアプローチにも価値があるのではないでしょうか。
とはいえ、それはバランスの問題で、どちらかに正解があるわけではありません。もちろん、帰納法に終始していたら著者ほどの実績は成し遂げられなかったでしょう。ただし、誰しもそれを目指せるわけではないし、適切な目標を設定するのがマネジメントの仕事です。
本書は「どうしたら、会社のなかでゼロイチを実現できるか?」といった個人目線と、「どうすれば、ゼロイチを生みだす人材を育てる事ができるのか?」といった、マネジメント目線からも書かれたといいます。正直、後者の議論は薄いといわざるを得ません。
しかし私にとって、この難しい問題を考えるきっかけを与えてくれる書籍でした。
~併読のお薦め~
■シリアル・イノベーター 「非シリコンバレー型」イノベーションの流儀 アビー・グリフィン他(著)
この本は成熟企業の中で大きなブレイクスルーを生みだすは人材を研究したものです。そして、その人材が希少であることを前提としたうえで、それを目指す人だけではなく、技術マネージャー、人事マネージャー、CTO、CEOに向けても書かれています。
大きなブレイクスルーという意味でのゼロイチを成し遂げられる人は、結局のところ希少だと思います。しかし、同僚、マネージャー、経営者が彼らの存在をどう捉え、どう接するかを考えることも非常に重要だと思います。
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