ビジネス・フォー・パンクス ジェームズ・ワット(著)



普遍的で大切なものの中にあるパンクの精神



クラフトビール "BrewDog" 創業者、ジェームズ・ワットによる、ルールを破り熱狂を生むマーケティング論。 起業家の著書といえばとにかくアツいものが多いのですが、私は、ベン・ホロウィッツのHARD THINGS(2015)、ピーター・ティールのZERO to ONE(2014)に続く、起業本となるかと期待して本書を購入。結果は期待ほどではありませんでしたが、内容は面白く一気に通読しました。 



上記の2冊に対して本書の特筆すべきところは、マーケティングの話題の豊富さにあると思います。起業の経験がない1マーケター(私)にも得られるものは少なくないはずです。 



早速、本書のパンクなマーケティング施策を挙げてみようと思います。


・マイナス30度の冷凍庫に裸で入り、動画に撮ってブログに載せる

・車にはねられたリスの死骸をアルコール度55%のビールのパッケージに使う(コピーは"THE END OF HISTORY")

・ロシア大統領のまねをしてロシアの同性愛政策を批判する

・他社の工業生産ビールのボトルをゴルフクラブで打って割る



こうしたハイリスクな戦略が成果をあげ、世界中で話題になり、支持されるために重要なことは、過激なコンテンツを投入する前の段階で、長い時間をかけてコンテンツを充実させ、ブランドを確立し、信頼性にとことんこだわること。そしてもう一つが実行中のコミュニケーションのとり方です。BrewDogが公開するあらゆる情報を通じて、派手な行動が核となる使命と結び付いていることを強調したといっています。(P162-P163)



これらを通じて本書で繰り返し主張していることは、以下2点に表すことができるような気がします。  


■使命が先 ※翻訳は"使命"だが原書は"CRUSADE"(聖戦)です。

BrewDogは、「イギリスのビール産業に革命を起こし、この国のビール文化を変える」(P4)という使命を掲げて生まれた。それは今や世界50カ国に出荷され、六本木に進出している現在にも受け継がれている。 革命が始まれば、ただ会社を始めるよりも大きな目的と意味を持った文脈が生まれ、会社はその一部になる。また、会社を革命の中に位置付けることで、自分たちの活動に広がりが生まれ、確立され、大きくなっていく。そうなれば、だた、商品を売るのとは別格の力強さと、明確な目標と、魅力が備わる。使命を掲げ、自分たちの領域を確立しよう。気を引き締めて、戦いを始めるのだ。(P187)


■オープンに情報を発信すること

内と外を分ける壁はずっと昔に崩れ去った。そうなれば必然的に、会社内部の文化が、外部のブランドイメージとシンクロする。つながりを遮断できる時代は終わった。あなたの会社を見ているのは、深く豊富な知識を持った勘の鋭い玄人なのだから、嘘まじりのマーケティングはすぐばれる。

ブランドの真の姿は間違いなくすべて伝わり、それが本物の、意味のあるブランドイメージになる。(P151)

使命を掲げて人を惹きつけるためには、本を読んで、自分の使命について集中して学び、それを伝えよう。商品ではなく、情報を売るつもりでいよう。まずは顧客への情報提供で競争相手を上回ることだ。(P187)



※他にも取り上げたい各論は以下のようにいくつもあるがあまり長文になっても良くないので(既に長文だが)箇条書きに留めておきます。


・上記のマーケティング施策の実例(P191-P192)

・わずか2ページで終わってしまうシンプルなセールス論(第4章)

・オープンな情報発信をそのまま社内に持ち込んだチームビルディング(第5章)



さて、本書ではパンクといい、どんな破天荒ぶりが書かれているのかと思ったら、案外経営のセオリーというか、これまでの先例と変わらないことも多く書かれているようです。例えば、「財務の知識は必要である(第2章)」「重要業績指標(KPI)を定め、観測し、コントロールし、管理しなければならない(P349-P352)」「ウィン・ウィンの関係を築く(P353-355)」これらは、かつてさまざまな経営書で読んだことのある言葉のように思います。また、マーケティングについても、「クラウドファンディングで資金調達」「ブログやソーシャルの双方向コミュニケーション」は、決して新しいものではありません。



だからといって本書に価値がないと言いたいわけではありません。本書に出てくる過激なマーケティングは、価原理原則をおさえた上での行動であり、そのバランスに価値があると思うのです。



大切なことは、これまで述べてきたように、使命(理念、ビジョン、ミッション、ウェイ…なんと呼んでもよいと思う)の細部にまでとことんこだわりを持つこと。そして、とにかく行動を起こし、情報を発信し続けるということなのだと思います。



※本書に対して、1つ批評をするとするなら、事例が断片的で総じて情報が少ないことが挙げられます。例えば、使命を掲げた後、どのように製品を開発しているのでしょうか?世界に50カ国に出荷する生産拠点や物流、鮮度の維持の方法は?急成長する中での意思決定プロセスは?といった、BrewDogの成功の過程、そこに至るまでの苦労や葛藤がほとんど書かれていません。とはいえ、本書の冒頭では「哲学を描いていく」といっているのですからそれ自体に文句はありません。ただ、この哲学を元にした各戦略の文脈が読み取れたらさらに良かったと思ってしまいます。その意味を込めてAmazonレビューでは★を4つとさせていただきました。

0コメント

  • 1000 / 1000