シンプルに考える 森川亮 (著)
【書評】「本質」を見極めて行動することの大切さと難しさ
LINEを成功に導き、今年3月にCEOを退任した森川さん初の著書(短編を除く)。
MBAを取得し、自身のブログでは数十冊の書評を公開している森川さん。ハードなビジネス理論を展開することはもちろんできたでしょう。しかし、そこは封印。一つの節が4ページとコンパクトにまとめながらも、心に訴えかける内容が心地よい一冊となっています。
本書に他の理論や書籍の引用、フレームワークは出てきません。また、ビジネスの常識と逆をいく思考が展開されています。しかし、そこから森川氏の経験に裏打ちされた独自の理論(大層な引用はせずとも)を垣間見ることができます。例えば以下の通り。
「経営理念」は文書にしない
「ビジョン」はいらない
「計画」はいらない
「仕組み」では成功できない
「情報共有」はしない
「差別化」は狙わない
「イノベーション」は目指さない
私たちは、理念を掲げ、ナレッジを貯め、計画通りに事を運び、差別化とイノベーションを目指すべきと学んできました。森川さんはこれらを否定しているわけではありません。
しかし、「本質」は「ユーザーのニーズに応える」こととし、この一点に全力を注ぐ。そうした場合、
「ユーザー」のニーズに応えることが仕事で生きているのであれば、わざわざ経営理念を文書化する必要はない。「ユーザー」に最も近い現場に権限を委譲し、変化に柔軟に対応する。
そして、差別化は、競合他社との比較であり「ユーザー」のためではない。ユーザーが必要としていることを他社が提供していないのであれば、結果として差別化やイノベーションが実現されるというわけです。
このようにまとめてしまうと、実に簡単そうなのですが、実際に行動することは非常に難しい。LINE株式会社の具体例を実際に読み、初めて腹落ちしたことも多かったです。
企業文化は一朝一夕でできるものではなく、私たちがいきなり実践できるものばかりではありませんが、最初の一歩を踏み出さなかれば何も始まりません。
現状維持ではいけない、何か新しいことをしたいと考える方には、管理職の視点から現場の視点まで幅広く参考になる一冊です。
~併読のお勧め~
■エッセンシャル思考 最少の時間で成果を最大にする グレッグ・マキューン(著)
まずは、それぞれ2冊の帯のキャッチコピーを見てみましょう。
エッセンシャル思考・・・99% 無駄を捨て1%に集中する方法!
シンプルに考える・・・本当に大切な1%に100%集中する
驚くほどよく似ています。しかし、「エッセンシャル思考」はknow-howやhow-toが豊富。最初 に「シンプルに考える」を読み、この思考を実践したいと思ったら、「エッセンシャル思考」を読まれることをお勧めしたい内容です。
■仕事は楽しいかね? デイル ドーテン(著)
第14章 きみが「試すこと」に喜びを見出してくれるといいな。
■ビジョナリー・カンパニー ― 時代を超える生存の原則 ジム・コリンズ(著), ジェリー・I. ポラス(著)
第7章 大量のものを試して、うまく行ったものを残す
こちらの2冊は、「捨てること」よりも「試すこと」の効果を論じています。「捨てる」と「試す」、読み進めているうちにどうやらこの2つは水と油の議論ではないことがわかります。
これら4冊全てに共通している視点は、「仕事は自分で選ぶ」「計画に縛られず遊びをつくる」そして、「情熱と楽しさ」ではないでしょうか。
『本当に大切な1%に100%集中する』は、容易いことではないが『あれこれ試してから』も悪くない。そう感じさせてくれます。
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